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新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 弐
”Folklore of the new adaptation no.5 : Karouto Yuraitan 2” - oil on canvas, acrylic paint,530×410mm
”新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 弐” - キャンバスに油彩、アクリル
2021
”新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 弐” - キャンバスに油彩、アクリル
2021
詳細情報
村の女の子達は物心ついた時分から、森の真ん中を悠然と流れる大きな川に大切なものを流す、という行為への抵抗を無くしていく。
幾度も流しているうちに、いつしか「流してしまうなんて嫌だ」という気持ちは薄れていく。
そうすると、晴れて”卒業”なのだそうだ。
一体何からの卒業なのかは分からないが、ともかく、村の幼い彼女らは否応無しにその流れに呑み込まれていく。
年上の女の子達に指示をされたら、文句を言わずに必ず大切なものを流さねばならない。
その時点で一番大切にしている物を、だ。決して二番目や三番目ではいけない。
全く不思議なことだが、年上の女の子達には、年下の子らの差し出すそれが、果たして本当に本人にとっての一番なのかどうかというのがはっきりと分かるらしいので、騙すつもりで臨んだところであっけなく見破られてしまい、みんなの前でこっぴどく叱られる。
そればかりか、しばらくの間は仲間外れにされて、丸三日はおやつにありつけなくなるし、こっそり蒐集していたビー玉も全部没収されてみんなに配られてしまうし、その年のお祭りで浴衣を着ることが許されないという耐え難い罰を甘んじて受けねばならない。
それを、幼いながらもみんなちゃんと分かっているのだ。
繰り返すうちに、何も思わなくなる。
いつか来るその時のために、女の子達は大切なものを流す。